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引き止めの成功率は24%。条件で残ると、また辞めたくなる

自己分析
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「辞めます」と伝えた日のことを、今でもわりと鮮明に覚えている。

言い終わった瞬間の、あの妙な静けさ。
相手が何を言い出すか分からない、宙ぶらりんな数秒。
正直、心臓がうるさかった。

私の場合、そこで返ってきたのは「昇給するから」でも「困るよ」でもなかった。

上司は少し黙ってから、「それ、転職したら本当に解決するの?」と聞いてきた。
そこから、なぜ辞めたいと思ったのか、その原因は場所を変えれば消えるのか、残る場合と辞める場合でそれぞれ何が得られて何を失うのか——を、一緒に書き出して整理し始めた。

引き止め、というより、ほぼキャリア相談だった。
今思えば、あれはかなり上等な引き止めだったと思う。

ただ、正直に言うと、世の中の引き止めの大半はあんなに親切じゃない。

そして、親切じゃない引き止めに乗って残った人が、しばらくすると同じ場所でまた「辞めたい」と言い出す——そういう話は、実はめずらしくない。

今日はその話をしたい。

引き止められると、なぜか心が揺れる

辞めると決めたはずなのに、いざ引き止められると心が揺れる。
あれは意志が弱いからじゃない。

「あなたが必要だ」と言われて、悪い気がする人はいない。
しかも退職を切り出すって、それなりに勇気がいる。

その勇気を出した直後に「残ってほしい」と返されると、張りつめていた糸がふっとゆるむ。
「あれ、そんなに必要とされてたんだ」と、正直うれしくなる。

でも、ここで一回立ち止まったほうがいい。

そのうれしさは、辞めたい理由が消えたことによるうれしさではない。
「必要とされた」ことによるうれしさだ。この二つは、似ているようで全然ちがう。

退職を切り出すところまでの流れは別の記事でも書いたけれど(退職を曖昧に切り出すと、辞められなくなる)、切り出したあとに待っている「引き止め」は、また別の関門だったりする。

引き止めの成功率は、実は24%

ここで一つ、数字を置いておきたい。

エン・ジャパンが30歳以上の転職検討者388名に行った調査によると、「カウンターオファー(退職を伝えたあとの引き止め交渉)を受けたことがある」と答えた人は32%。

そのうち、引き止めをきっかけに転職をやめたことがある人は24%だった。

出典:エン・ジャパン「カウンターオファー(退職引き止め交渉)についてのアンケート」(エン株式会社、2014年11月公開/調査対象:「エン転職コンサルタント」利用者388名・30歳以上、調査期間:2014年8月)

つまり、引き止められても4人のうち3人はそのまま辞めている。
「引き止めに乗って残る」というのは、思っているより少数派なのだ。
少し古い調査ではあるけれど、引き止めの中身が今とそこまで変わっているとは思えない。

引き止めで使われた条件の内訳も面白い。

1位が「昇給」(31%)、2位が「特に条件なし(上司からの熱心な引き止め)」(27%)、3位が「他部署への異動」(23%)。

要するに、お金か、情か、配置換え。
だいたいこの3つだ。

そしてこの調査には、残った人のこんな声も載っている。

昇給はしたものの、約束された新しいプロジェクトは途中で消え、結局また転職活動を始めた——というコメントだ。

引き止めの場で出てくる約束は、けっこうな確率で守られない。

引き止める側にも、ちゃんと事情がある

私は人事として6年ほど採用や労務をやってきて、そのあと自分も転職した。

だから、引き止める側の頭の中も、辞める側の気持ちも、両方そこそこ分かるつもりでいる。

正直に言う。
引き止める上司の頭の中は、必ずしも「あなたの幸せ」でいっぱいではない。

一人抜けると、その穴を埋める採用にはお金も時間もかかる。

求人を出して、書類を見て、面接して、内定を出して……と考えると、目の前の一人に残ってもらえたほうが、短期的にはずっと楽なのだ。

だから「昇給」も「異動」も、半分はあなたのためで、半分は「今この穴を開けたくない」という会社側の都合だったりする。

採用担当としては、こういう場面も何度も見てきた。

こちらが内定を出して「来てくれる」と思っていた人が、今の会社に強く引き止められて、結局辞退する。引き止めた側からすれば大成功だ。

でも、その人がその後どうなったかまでは、こちら側からは見えない。
半年後にまた別のエージェント経由で応募してくる、なんてことも、実際にはある。

何が言いたいかというと、引き止めは「あなたの人生をいちばん考えた末の提案」とは限らない、ということだ。

そこを冷静に見ておかないと、うれしさに引っぱられて判断を間違える。

落とし穴は「何で残るか」を間違えること

ここが一番大事なところなので、少し丁寧に書く。

引き止め自体は、悪いものではない。
問題は「何で引き止められて、何で残るか」だ。

辞めたい理由が「給料が低い」なら、昇給の引き止めで解決する可能性はある。

でも、辞めたい本当の理由が給料じゃないのに、昇給というエサで残ってしまうと、根っこの問題はまるごと残る。

だからしばらくすると、また同じ気持ちがぶり返す。
冒頭のデータで「昇給したのにまた転職活動を始めた」人がいたのは、たぶんこれだ。

実はこれ、引き止めに限った話じゃない。

条件は悪くないのに辞めたくなるときって、たいてい原因は数字で測れないところにある(このあたりは「条件はいいのに辞めたい」を我慢で潰すと、じわじわ後悔するにも書いた)。

引き止めの条件がどれだけ良くても、その「数字で測れない理由」には届かない。

一方で、引き止めには意外な使い道もある。

引き止められた瞬間って、実は「自分が何で辞めたかったのか」がくっきり見える瞬間でもあるのだ。
昇給を提示されて「いや、そういうことじゃない」と感じたなら、あなたの退職理由はお金じゃない。
異動を打診されて心が動いたなら、辞めたい理由は仕事内容だったのかもしれない。

引き止めは、自分の本当の退職理由をあぶり出す鏡になる。

だから「残るか去るか」の即決材料にするんじゃなくて、「自分は何に反応したか」を観察する材料にするといい。

引き止められたときの、具体的な進め方

じゃあ、実際に引き止められたらどうするか。

私が受けた「一緒に整理する」タイプの引き止めを、自分で自分にやるイメージで書いてみる。
明日にでもできることばかりだ。

1. その場で即答しない。

うれしさも動揺も、切り出した直後がピークだ。
「少し考えます」で一回持ち帰る。
判断は、感情の波が引いてからでいい。

2. 引き止めの「中身」を仕分ける。

提示されたのが昇給・異動なのか、それとも「困る」「必要だ」という情や罪悪感なのかを、紙に分けて書く。
情や罪悪感だけなら、残っても状況は一ミリも変わらない、と冷静になれる。

3. 退職を考えた「本当の理由」を先に書き出す。

引き止めの条件を聞く前に、自分が辞めたかった理由を3つくらい書く。
そのうえで「この条件で、その理由は消えるか?」を一つずつ照らし合わせる。
消えないなら、どれだけ条件が良くても答えは出ている。

4. お金で引き止められたら、金額の話は金額として切り分ける。

昇給提示は、うれしいぶん判断を鈍らせる。
もし本気で交渉するなら、残る前提ではなく条件そのものを見極める姿勢がいる(黙って内定承諾すると損する|年収交渉した人の85%は上がるも参考に)。

手前の一手として。 「自分の辞めたい理由が、条件で消えるものなのか分からない」という人は、いきなり結論を出さなくていい。

まずは自分の市場価値や強みを客観的に見てみると、引き止めの条件が妥当なのかも判断しやすくなる。

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まとめ

引き止めは、敵でも味方でもない。
ただの「情報」だと思うくらいがちょうどいい。

大事なのは、引き止められて心が揺れたときに、その揺れの正体を見にいくこと。

「必要とされてうれしい」のか、「辞めたい理由が本当に消える」のか。

この二つを分けて考えられれば、たぶん判断を大きく外さない。

引き止めの成功率は24%。

残るのが正解の人も、もちろんいる。

でもそれは「条件に流されて」じゃなくて、「理由が消えると納得して」残った人であってほしい。
私が受けた引き止めが良かったのは、条件を出されたからじゃなくて、一緒に理由を整理させてくれたからだ。

辞めるにしても残るにしても、まずは紙とペンを一枚。今日はそこからでいい。

よくある質問

Q. 引き止められて残るのは、やっぱり悪い選択ですか?

悪いとは限らない。問題は「何で残るか」だ。

辞めたい理由が給料で、昇給でそれが解決するなら、残る判断はありえる。

ただ、辞めたい理由が条件以外にあるのに条件で残ると、同じ気持ちがぶり返しやすい。
エン・ジャパンの調査でも、引き止めをきっかけに残った人は24%にとどまっている。

Q. 昇給を提示されました。受けてもいいですか?

金額そのものは冷静に見ていい。

ただ、昇給提示はうれしさで判断を鈍らせやすいので、「その昇給がなくても辞めたかったか?」を自分に聞いてみてほしい。

答えがイエスなら、退職理由はお金じゃない可能性が高い。
交渉の考え方は年収交渉の記事も参考になる。

Q. 「君が必要だ」と情に訴えられて、断りづらいです。

その気持ちは自然だし、勇気を出して切り出したあとなら、なおさら揺れる。ただ「必要とされてうれしい」と「辞めたい理由が消えた」は別物だ。

情や罪悪感は、あなたの退職理由そのものには手をつけていない。

一度持ち帰って、感情の波が引いてから決めていい。

Q. 引き止めを断ると、気まずくなりませんか?

多少はあるかもしれない。

ただ、退職を伝えた時点で関係はすでに少し変わる。
それを恐れて残っても、遠慮が積み重なって結局しんどくなる、というのはよくある話だ。

気まずさは一時的なもの、と割り切ったほうが、長い目では楽なことが多い。

出典・データ一覧

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